事業承継について(2)我が社の株価はいくらか?
たとえば子供に株式を相続するとき、その価格はいくらとして相続税が計算されるのでしょうか?
これが意外にも上場会社の株価が大きく影響しているのです。
嫌がらせのようにw 様々なルールがありますので、ここでは特定のパターンにしぼり複雑なルールは簡略して考えてみます。
自社株の評価方法
税法上、自社株の評価は同族会社の場合、次の計算式で求めることになっています。
株価 = 純資産額 × (50%〜0%) + 類似業種比準価格 × (50%〜100%)
このうち(50%〜0%)の部分は会社規模によって決まります。
つまり自社株の評価には次の3つの要素が使われます。
1 | 会社規模 | 従業員数、純資産、売上額により判定 |
2 | 純資産価額 | 貸借対照表の純資産(自己資本)を元に時価換算 |
3 | 類似業種比準価額 | 上場している同業種の株価を元に算定 |
ただし、以下のような会社の株価の出し方は少し変わってきます
- 会社の財産がほとんどが土地の会社 →純資産価額により評価
- 開業後3年未満の会社 →純資産価額により評価
- 3期連続で、配当、利益が0の会社 →会社規模に関わらず純資産価額を75%
- 会社の財産の半分くらいが株式の会社 →株式部分は純資産価額により評価
では、具体的に算出してみましょう。
会社規模の判定
まず最初は会社規模の判定です。
会社規模は、従業員数、純資産額、売上高によって5つに分類されます。
小さい順に、
- 小会社
- 中会社の小
- 中会社の中
- 中会社の大
- 大会社
となります。
基準は、A.純資産、従業員基準と、B.取引額基準を使い、A,Bのうち規模が大きい方を採用します。
A.純資産、従業員基準
純資産評価 | 従業員数 | ||||||
卸売業 | 小売 サービス業 |
その他の業種 | 5人以下 | 6〜 30人 |
31〜 50人 |
51〜 99人 |
100人 以上 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
20億円以上 | 10億円以上 | 10億円以上 | |||||
14億円以上 | 7億円以上 | 7億円以上 | 中会社の大 | 大会社 | |||
7億円以上 | 4億円以上 | 4億円以上 | 中会社の中 | ||||
7千万円以上 | 4千万円以上 | 5千万円以上 | 中会社の小 | ||||
7千万円未満 | 4千万円未満 | 5千万円未満 | 小会社 |
B.取引額基準
取引金額 | 会社規模 | ||
---|---|---|---|
卸売業 | 小売 サービス業 |
その他の業種 | |
80億円以上 | 20億円以上 | 20億円以上 | 大会社 |
50億円以上 | 12億円以上 | 14億円以上 | 中会社の大 |
25億円以上 | 6億円以上 | 7億円以上 | 中会社の中 |
2億円以上 | 6千万円以上 | 8千万円以上 | 中会社の小 |
2億円未満 | 6千万円未満 | 8千万円未満 | 小会社 |
上記を元に会社規模を判定し、前述の50%〜0%の部分の按分率を決定します。
会社規模 | 株価の評価方法 |
---|---|
小会社 | 純資産 × 50% + 類似業種 × 50% |
中会社の小 | 純資産 × 40% + 類似業種 × 60% |
中会社の中 | 純資産 × 25% + 類似業種 × 75% |
中会社の大 | 純資産 × 10% + 類似業種 × 90% |
大会社 | 純資産 × 0% + 類似業種 × 100% |
例えば・・
ソフトウェア業の場合、
従業員数が38人、総資産5億円のとき、= 中会社の中
売上高3億円のとき、=中会社の小
大きい方を採用するので「中会社の中」となる。また、従業員が100人いるとき、自社の純資産は関係なくなり上場している類似業種の株価と同じ株価として計算される!
純資産の価額方式
次に純資産の価額方式を見てみます。純資産は資産の含み損・含み益を加減算して算定(=時価)します。一般的には評価額が高くなる傾向があります。
含み益のある資産を保有するケースのバランスシートの考え方
借方 | 貸方 | |
通 常 の BS |
資産 500 |
負債合計 300 |
純資産 200 |
||
時 価 評 価 分 |
不動産等の含み益 100 |
純資産として加える含み益 62 |
純資産に加えない控除分 38 |
含み益100をプラスして純資産に加えますが、このとき実際に処分したとき支払う税金分(38%)を控除して純資産に加えます。
よって、残り62%が時価評価として純資産に加わります。
逆に含み損を抱えているケースでは、含み損の全額を純資産額から控除し、その残額が純資産価額となります。
類似業種比準価額方式
業種の類似する上場会社の平均株価に比準して計算します。
平均株価等については、国税庁のホームページで公表されていますので、誰でも自由に確認することができます。
まず類似業種の業種も区別株価を得ます。下記例は、ソフトウェア業における設例です。
配当金額 (B) |
利益金額 (C) |
簿価 純資産価額 (D) |
株価(A) | ||||
---|---|---|---|---|---|---|---|
H26年平均 | H27/1 | H27/2 | H27/3 | H27/4 | |||
3.9 | 25 | 176 | 320 | 355 | 353 | 361 | 373 |
株価(A)は、直近3ヶ月と前年平均の4つの中で最も安い金額を採用します(設例では320を採用)。
次に自社の数値を出しておきます。
必要となるのは以下の数値です。
- 自社の1株あたりの配当(b)
- 自社の1株あたりの利益(c)
- 自社の1株あたり純資産額(d)
※これは時価評価せず決算数値を使用します
上場企業と株の単位等が違いますので、1株あたりを出すには、実際の発行株式数ではなく「資本金÷50円」で求めた株数で割ります。
さぁて、ここからが、税の難しいところです。
「誰がこんなこと考えるんだろう」という計算式で求めます。
類似業種比準価額 = A × (((b ÷ B) + (c ÷ C × 3) + (d ÷ D))÷5) × 斟酌率 × (1株あたりの資本金の額÷50円)
ね?吐きそうになるでしょ??
斟酌率は、
- 大会社 0.7
- 中会社 0.6
- 小会社 0.5
を適用します。
これで、我が社の適正な株価を算出できるようになりました。
次回は具体的な会社を例に、考えてみましょう。
そして最終目標である、どうやって節税するかを考えましょう。
具体的な会社として以下の条件の会社を例にします。
とあるソフトウェア会社X社のケース
X社情報
業種 | ソフトウェア業 |
設立時期 | 昭和60年4月 |
株式数 | 10,000株(1株1000円) |
従業員 | 25人 |
創業者は平成18年に他界し、長男一郎さんが社長に、次男の二郎さんが副社長に就任し、現在まで会社経営を行っている。
株主構成は、社長一郎さん55%、副社長二郎さん25%、従業員小林さん20%となっており、小林さんは設立時より会社を支えてきた功労者で今年65歳。
財政状況
資産 | 負債・純資産 | ||
預金 | 4,000万円 | 買掛金 | 2,500万円 |
売掛金 | 2,500万円 | 借入金 | 2,000万円 |
他流動資産 | 1,500万円 | その他 | 500万円 |
固定資産 | 2,000万円 | 負債合計 | 5,000万円 |
保険積立金 | 800万円 | 資本金 | 1,000万円 |
その他 | 200万円 | 剰余金 | 5,000万円 |
資産合計 | 1億1,000万円 | 純資産 | 6,000万円 |
総資産:1億1,000万円、負債:5,000万円
純資産:6,000万円(簿価)
時価情報
保険積立金:解約払戻金1,300万円(含み益500万円)
その他資産、負債の時価は帳簿価格と同額(含み損を抱えている資産負債はない)
経営成績
売上(取引金額) | 2億3,000万円 |
売上総利益 | 1億1,600万円 |
経常利益 | 1,100万円 |
税引き前利益(課税所得) | 700万円 |
売上・利益ともにここ数年大きな変動はない。
配当金は毎期50万円(資本金の5%)を支払っている。
問題
- 一郎さんの保有株式の価値はいくらでしょうか?
- 二郎さんの保有株式の価値はいくらでしょうか?
- 小林さんの保有株式はいくらでしょうか?
- 小林さんが一郎さんに株式を売却するケースで、小林さんにかかる税金はいくらでしょうか?
- 小林さんが会社に株式を売却するケースで、小林さんにかかる税金はいくらでしょうか?
概算税率40%(所得税率(累進税率)30%+住民税率10%として計算)
上記、ともに現在の価値での売却とします。
また、原価(株価1,000円)で売却する場合について、4,5がどのようになるかも考えましょう。
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